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西尾先生からの学び

       


大濱 和美

「同じ夢を繰り返し見る経験をしている人はいませんか」と西尾先生が尋ねられた時、私はためらわず手を上げた。
AIUCSPP大学院1期生が入学した年の講義でのことだ。同期生の前で私はクライアント役になり、先生のemptychairを使った夢のワークを体験した。
当時頻繁に見ていた私の夢というのは妊娠して赤ちゃんを産む夢だった。
夢の中で私はこの年齢で赤ちゃんも産み育てるのは大変でとても苦労の多いことだと思っていた。
だが産まれたばかりの小さな赤ちゃんを抱いた私が眺める窓の外には眩しい青空が広がっていた。
高齢で赤ちゃんを産み育てるということは、苦労は多いが新しいことにチャレンジしていくこと、すなわち大学院に入って学び臨床家としての道を歩むと言うことを意味しているのだと気付いた。
私のデモンストレーションワークの後で、西尾先生は「私は赤ちゃんのおしめを替える夢を見るのよ」とおっしゃった。
先生にとっての赤ちゃんとはほかでもない私たち大学院生のことだった。あれから20年の月日が経った。
今では赤ちゃんたちは成人しそれぞれ臨床家として独自の道を歩んでいる。

リプロセスリトリートをはじめ沢山の理論や技法を先生から学んだ。
在学中だけでなく院を修了した後も先生のワークショップや研修に参加し、スパービジョンも受けた。
しかし何よりも先生から影響を受けたのは学び続ける臨床家としての姿勢だ。
斎藤学先生は西尾先生のことを「単身日本からアメリカに渡り活躍しているイチローのようだ」と称賛された。
またこうも言われた「ああ見えても西尾さんはね、自分でも沢山の研修に参加してるのだよ」と。

晩年の西尾先生は先生のセラピーの集大成であるリプロセスリトリートを教え子等に伝えることにエネルギーを注ぎこまれた。
先生からリプロセスリトリートを伝授していただいた後も私は新しい心理療法や理論を学ぶことを続けようと思った。
そして学ぶほどに西尾先生が現役時代どれ程学んでこられたかが垣間見えた気がした。
リプロセスリトリートの各所にそのエッセンスがちりばめられているのに改めて気づかされ感心した。

西尾先生との思い出は尽きない。先生とは奈良や京都、清里、サンフランシスコ等々各地を一緒に歩いた。
早足で歩きながら先生と二人で沢山のことを話した。
先生はいつも健康に気を付けておられよく運動されていた。
「トラウマは腰にたまるのよ」と、腰を振って踊るアフリカンダンスを教えていただいたこともある。
私が「フラダンスもとっても楽しいですよ」と言ったら、先生はシニアコミュニティーでフラダンスのプログラムを探されたらしい。
そのシニアコミュニティーで先生はヨガを教えておられた。
ある日、先生に「気持ちがしんどい時など先生はどうなさっているのですか」と尋ねたら、先生は「歩く」と一言。

西尾先生は一生涯前進し続けられていた。